課長に恋してます!
「そういえば石上、大学の時、モテモテだったよね。彼女いたの?」

 高校まで野球をやっていた石上は肩幅が広くて細マッチョで身長もあって、わりと女の子たちからモテていたのを思い出した。

「いきなり何だよ」照れくさそうに石上が濃いめの右眉を上げる。
「聞きたいじゃない。人の恋バナって面白いし」

 私もビールから日本酒に切り替わっていた。
 アルコールもほどよく周り、気分は良い。

「いたよ。だけど別れた」
「なんで別れたの?」
「就職して忙しくなったからだよ」
「ふーん、その後は何もないの?」
「その子とか?」
「うん」
「もう五年会ってない。完全に忘れてたよ」
「そういうものなの?」
「そういうもんだ」
「じゃあ、私も五年したら課長の事忘れてるのかな」
「ああ、忘れてる。忘れてる」
「何、その言い方。バカにされてるみたい」
「いつまでも無理な相手を想ったってしょうがないだろ。お見合いでもしろよ。仕事で失敗すると寿退社するって、前はあんなに言ってたじゃないか」
「寿退社か。なんかそういうの全然思えない」
「変わったな」
「大人になったの」

 寿退社がいいと言っていた頃の私は嫌な事から逃げたかっただけの子どもだった。
 課長に出会って人を好きになるって事がどんなに幸せで苦しいかわかった。
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