課長に恋してます!
 どうしてこんな昔の事を夢見てるんだろう。
 ゆり子との結婚までの出来事を辿っているような夢だった。

 目を覚ますと、汗をかいてた。
 喉がカラカラで、ベッドの側の、ミネラルウォーターを一気に飲んだ。
 
 葵にメールを書いてる途中だった事を思い出した。
 香港での生活について書こうと思ったが、文面が思い浮かばず、昨夜、会社に電話してきた件についてだけ書いた。
 メールの返事が5分もしない内に返って来た。

『電話してないよ。安定期に入って順調だよ。今日健診だったの。
こっちの事は心配いらないからね。お父さんも体に気をつけてね』

 “体に気をつけてね”の一言に、苦笑が浮かぶ。
 順調で良かった。しかし、誰が電話して来たんだろうか?

 そんな事を考えていたら、眠くなってまた眠った。
 
 今度は一瀬君が出て来た。
 子どものように、不安そうに泣きながら「課長」って呼ばれた。

 抱きしめてやりたかった。どこにも行かない、一瀬君のそばにいると言ってやりたかった。
 だが、一瀬君との年の差に怯んで手が出なかった。
 
 一瀬君を泣かせたくないのに、僕は泣かせる事しか出来ない。
 19歳という年の差をどうしたら乗り越える事ができるんだろうか?
 そんな事を夢の中でうじうじと考えていた。
 
 次に目を覚ました時は部屋はすっかり暗くなっていた。
 ベッドの近くの置き時計を見ると、もう七時半だ。

 真っ暗な部屋に一人でいる事が無性に寂しい。
 一瀬君に会いたいと思った瞬間、インターホンが鳴った。

 きっと王さんだ。お見舞いに来てくれると言っていたから。
 パジャマの上にカーディガンをひっかけて、インターホンに出た。

「一瀬です」

 モニター画面に映っていたのは、一瀬君だった。
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