課長に恋してます!
 帰宅時間とあたったのか、地下鉄は満員だった。
 キャリーバックを抱えて車内に乗り込んだ。
 ぎゅうぎゅう詰めになるけど、日本で鍛えられてるから、これぐらい余裕だ。
 それよりも、毎日この電車に乗って課長が通勤しているんだと思ったら、胸が熱くなる。

 早く会いたい。

 青木さんの言った通り、20分ぐらいで目的の駅に到着する。
 後はここから迷わなければいい。
 確か課長のマンションは駅から徒歩5分ぐらいの所……。

 駅を出ると、高層マンションがズラリと並んでいる。
 近くで見ると、その高さにびっくりする。どれも、40階以上はありそう。日本で見るビルよりも細長くて、密集している。

 香港は地震がなく、土地も狭いから高層住宅が多いって、青木さんが教えてくれた。
 課長の住むマンションもこの中のどれかにある。
 地図を見ながら、慎重に進み目的のマンションを見つけた。
 
 マンションの中に入ると、オートロックになってて、自動ドアの前で部屋番号を入力するようになっていた。
 メモの課長の部屋番号を見ると、1508とあった。
 15階に住んでるみたいだ。

 カメラ付きのインターホンだったので、身なりを整えてから部屋番号を入力。
 少し間があってから、「はい」と応答があった。

「一瀬です」

 緊張でいっぱいになりながら、そう口にするけど、沈黙が流れる。

 あれ? 聞えなかった?

「一瀬です」
 もう一度繰り返した。

 目の前の自動ドアが開いて、「どうぞ」という課長の嗄れた声が聞こえた。
 日本を発ってから10時間、ようやく課長に会える。
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