課長に恋してます!
「熱が高いですね」

 心配そうな黒い瞳と合った。

 確かに、熱はまだあった。頭の中がぐらぐらしてて、いろいろな所が苦しい。

「風邪薬はありますか?」

 頷いた。

「どこです?」

 奥の寝室を指す。

「奥の部屋ですね。取ってきます」

 一瀬君がリビングを出て行く。

 姿が消えた途端、やっぱり夢のような気がしてくる。
 本当は誰もいない部屋に一人でいるんじゃないだろうか。

 不安になる。

 ソファからよろよろと立ち上がって、壁に手をつきながら寝室まで歩く。
 ベッドの側に一瀬君がいて、窓を開けて、空気を入れ替えたり、乱れた寝具を整えてくれていた。

「課長、お休みになりますか?」

 戸口で立っていると、こっちを振り返った一瀬君に訊かれた。

「本当に、一瀬君?」

 喉の奥から声を絞り出した。

「えっ?」

 美しい眉が驚いたように上がる。


「課長、どうしたの?」
「いや、だって、ここは香港だし、僕は夢を見て、いるんじゃないかと」

 喉の痛みで言葉が途切れ途切れになった。

「私はここにいますよ」
 にっこり微笑んで、近くに来た一瀬君が手を握ってくれた。
 柔らかな感触に夢じゃないと、ハッキリ確信できる。

「さあ、風邪薬を飲んで寝て下さい」

 そのまま手を引かれてベッドに連れて行かれる。

 言われるまま、風邪薬を飲んでベッドに横になった。

「ゆっくり休んで下さい」という一瀬君の言葉に甘えて、目を閉じた。
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