課長に恋してます!
 夜中、何度か苦しくて目を覚ました。  
 その度に一瀬君を見た気がする。  

 一瀬君はベッドの側にいて、冷たいタオルを額に当ててくれたり、手を握ったりしてくれた。  
 元部下にこんなに甘えていいんだろうかと思いながらも、そうされるのが嫌ではなかった。 

 香港に来て一か月、慣れない土地に気を張っていた。
 葵に「ホームシックになった?」なんて電話で聞かれて、「そんな訳ないじゃないか」ときっぱり言ったが、なってたのかもしれない。
 早く会社にも、香港にも慣れようと、積極的に人にも仕事にも関わった。
 王さんにちゃんと休みなよと、言われ続け、大丈夫だと高をくくっていたが、全然大丈夫じゃなかった。

 一瀬君を見た瞬間、誰かに寄りかかりたい程、疲れていた事に気づく。
 安心できる場所をまだ香港では見つけていなかった。
 長野から東京に単身赴任になった時は大丈夫だったのに。

 年だな。
 
 自分の事がわからなくなっていた。
 周りが心配するほど、働き過ぎていたんだ。
 
 もう、がむしゃらに頑張れる年じゃないんだ。

 一瀬君、僕は若くないよ。枯れていくおじさんだよ。
 側にいちゃいけないよ。

 タオルを替えてくれる、一瀬君に胸の内側で言った。
 甘えちゃいけないと思うのに、一瀬君に甘えてしまう。

 熱のせいにして。
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