課長に恋してます!
「お礼なんていりません」
 きっぱりと断った。

「課長の事は好きです。でも、課長に何かを求めて看病したんじゃありません」

 課長が驚いたように瞬きをする。

「人として病気で寝込んでる人をほっておけなかっただけです。ですから、お礼なんていりません」
「しかし、何かさせて欲しいんだ」
「私に気を遣ってる暇があったら、しっかり休んで下さい。昨日まで熱があったんですよ」

 本当は課長の側にいたい。
 だけど、看病につけこむような事はしたくない。

「帰ります」

 エレベーターのボタンを押した。
 タイミングよくエレベーターが開いて乗り込んだ。

 課長も乗り込んでくる。

「見送りはいりませんよ」
 
 隣に立つ課長に言った。

「見送りじゃない。散歩に出る」

 課長はパジャマにカーディガンを引っ掛けた薄着だった。

「何言ってるんですか。そんな薄着で出かけたらぶり返しますよ」
「そう思うなら、待ってて欲しい。着替えてくるから」
「お礼なんていらないって言ってるのに」
「さんざん世話になるだけなって、このまま帰す訳には行かない。せめてお昼ぐらいご馳走させて欲しい」
「だからそういう気遣いはいりませんって」
「そんな事言われても僕の気がすまない。何のお礼もしないまま一瀬君を帰せない」

 1階に着くまで、課長と押し問答を繰り返した。

 課長は絶対に自分の主張を曲げない。
 こんなに頑固な所があったなんて知らなかった。

「わかりました。お昼ご馳走になります」
 仕方なく折れた。
 惚れてる分、私の方が弱い。
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