課長に恋してます!
 一瀬君のキャリーバックを中環駅のコインロッカーに預けてからスターフェリーに乗った。  

 スターフェリーは二階建てで、景色がよく見える二階席に一瀬君を誘った。
  思った通り、雲一つない空に恵まれ、高層ビル街がよく見えた。

「うわー、香港だー」  

 隣に座った一瀬君が感激したように言った。

「よくガイドブックで見る景色です。凄いなー。私、香港にいるんだ」

 無邪気な感想に笑みが浮かんだ。

「寒くない?」

 冷たい風が吹いていた。今日の気温は10度ぐらいだ。

「全然」

 一瀬君が子どもみたいな表情で答えた。
 嬉しそうな顔が可愛らしい。

「課長は寒くないですか?」
「気持ちいいぐらいだよ」

 寒かったが、そんな事を言ったらマンションに強制送還される。

「無理してません?」
「してないよ」
「ならいいんですけど。課長はすぐ無理しますから」

 世話焼き女房のような言い方に胸がくすぐられる。
 心配される事が嬉しい。

「何です?」
「何でもないよ。もうすぐ尖沙咀(チムサーチョイ)に着くよ」
 
 フェリーは10分ぐらいて尖沙咀に着いた。
 スターフェリー乗り場の近くにれんが造りの時計塔があって、その前で一瀬君と写真を撮った。
 それから海沿いを歩いて、ブルースリーの像とか、ジャッキーチェンの手形がある通りを歩いた。

 海風が冷たかったが、一瀬君は目を輝かせてブルースリーの像を見ていた。
 スマホで写真を撮っている姿が微笑ましい。

 職場では見た事のない、はしゃいでる一瀬君を見て、どんどん喜ばせたくなる。一瀬君は生き生きとしたとてもいい表情をしていた。
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