課長に恋してます!
 昼食は海沿いのホテルに入った。広東料理のレストランが入ってて、飲茶が評判だと聞いていたので、一瀬君を連れて来た。
 入口で20分待ち、席に案内された。店内は丁度昼時とあって賑わっている。

「飲茶って初めてなんです。どうすればいいんですか?」

 円卓の隣に座った一瀬君がやや不安そうに眉を顰める。
 コートを脱いだ一瀬君はアイボリーのセーター姿で、とても似合っている。

「まずはお茶を注文するんだ。飲茶の主役はあくまでも、お茶だからね。それに合わせて、点心類をつまむ訳だよ」
「お茶が主役だったんですか。点心がメインだと思ってました」
「プーアル茶、ウーロン茶、ジャスミン茶があるけど、どれがいい?」
「えーと、プーアル茶で」

 ウェイターにプーアル茶を二人分頼んだ。
 すぐにティーポットと点心のオーダーシートが来た。

「これは何ですか?」

 オーダーシートを見ながら一瀬君が興味津々の様子で聞いてきた。

「点心のオーダーシートだよ。自分の食べたい物に印をつけるんだ」
「小籠包と春巻き以外わかりません」

 漢字だらけのオーダーシートを見ながら一瀬君が苦笑いを浮かべる。

「実はね、僕もよくわからない」
「えっ、課長もわからないの」

 呆れたような視線を向けられる。

「そういうの面白いだろ?」

 クスッと一瀬君が笑う。

「まあ、確かに。知らない事を楽しむのもいいかも。漢字から推理するのも面白そう」

 一瀬君が再びオーダーシートに視線を向ける。

「課長、見出しがありますね。小籠包と春巻きは『鹹点心』というカテゴリーの中に入ってるみたい。ここから選べばおかず系になるのでは?」

 一瀬君の推理力に感心する。

「あたり」
「え」
「『鹹点心(シェンテンシン)』は塩系の点心の事を指すんだよ。つまりおかず系の奴って事」
「知ってるじゃないですかー、もうー」

 一瀬君が膨れる。
 その反応が見られて楽しい。
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