課長に恋してます!

15 香港の夜【美月】

 香港に来た目的を聞かれて、ドキッとした。
 課長に会う為だけに来たなんて言ったら重たい女だと思われる。
 
「えーと」
 必死で理由を考える。

「観光です。前から予定してて。それで香港の様子を課長に聞こうと思って、香港支社に電話して」

 脇の下に大量の汗をかいた。
 矛盾した所はないだろうかと、自分の言葉を頭の中で反芻する。

「もしかして、僕が早退した日に電話くれた?」
「あ、はい。その時に課長が風邪だって知りました」
「ああ、そうか。一瀬君だったのか」

 課長が納得したように言った。

「王さんから娘が電話して来たって聞いてて、娘に確認したら違うって言われたんだよ。だから、誰だったんだろうなーって思ってたんだ」
「なんかすみません。余計な考え事をさせて」
「悪いのはこっちだよ。せっかくの香港旅行だったのに、看病させてしまって」
「いえ。一緒に来る予定だった子も急に来れなくなっちゃったから、課長の所にいられたのは都合が良かったというか」
「そうだったんだ。友だちとどこに行く予定だったの?」

 課長の突っ込みにさらに脇の下が熱くなる。

「えーと、その……、百万ドルの夜景が見える所」
「百万ドル夜景? ああ、ビクトリアピーク?」
「そう、そこです!」
「今日行くつもりだったの?」
「はい。夜になったら行ってみようと思ってて」 
「じゃあ、100万ドルの夜景を見に行こうか」
「課長、付き合ってくれるんですか?」
「お世話になったらかね。一瀬君が行きたい所について行くよ。女性が一人というのも危ないし。特に夜はね」

 スターフェリーを降りたらお別れだと思っていたから嬉しい。

「でも、課長、風邪は?」
「大丈夫、大丈夫」
「無理してません?」
「してないよ。さあ、行こう」

 課長に手を引かれて、中環に着いたスターフェリーから降りた。
 胸がドキドキしてくる。
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