課長に恋してます！
　カフェに戻ると、課長が私より若そうな女性と親し気に話していた。
　その光景を見た瞬間、胸が締め付けられる。

「あ、一瀬君」

　課長が私の存在に気づく。

「こらちは香港支社で一緒に働いている張(チャン)さん」

　女性に視線を向けていると課長が紹介してくれた。

　そして張さんには広東語で私の事を課長は紹介しているようだった。
　張さんと目が合い、会釈した。
　背が高くて、細くて、でも、胸はあって、物凄くスタイルのいい女性。顔も堀の深い整った顔立ち。

「イチノセサン、コンバンハ。カミムラさん、ワタシのセンセイ。ニホンゴオシエテモラッテル」

　張さんがたどたどしい日本語で言った。

「僕こそ張さんに広東語を教えてもらってるんだよ。香港の事もいろいろと教えてもらってて、ここのカフェも教えてもらったんだ」

　課長が嬉しそうに言った。
　それから課長は張さんに向かって広東語で何か話してた。

　二人が広東語でやり取りしてるのを見てて、嫌な気持ちになった。
　こんなの子供っぽいって思うけど、課長が親し気に女の人と話しているのが許せない。
　そして、そんな風に思う自分がさらに許せない。

　なんて度量の小さい人間なんだろう。
　地面に埋もれたくなるぐらい落ち込む。

「課長、そろそろ行きますね」
「え」

　課長が張さんから視線を私に移した。

「ちょっと早いですけど、空港に行きます。後は一人で大丈夫ですから。今日は本当にありがとうございました」

　課長にお辞儀をして、嫉妬でいっぱいの気持ちを抱えたままカフェを出た。
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