課長に恋してます!

16 課長の日常【上村課長】

 張さんに一瀬君の事を可愛い女性ですね。デートですかなんてからかわれていたら、いきなり一瀬君がカフェを出て行った。

「ありがとうございました」と言った時の表情は強張っていた。
 
 一体、一瀬君はどうしたのだ?

 急いで空港に向かわなければ行けない時間でもない。
 何か急用を思い出したんだろうか。

「追いかけなくていいんですか?」

 広東語で張さんが言った。

 そうだ。追いかけなきゃ。

 まだちゃんと一瀬君にさよならを言っていないし、それに……お土産も渡せていない。

 カフェを出てショッピングモールの中を見回した。
 休日だけあって人が多い。
 通路中を人が行き来している。

 一瀬君のグレーのコートを探す。
 ひざまで長さのあるコートで、色は明るいグレー。
 髪は一本に結んでて、キャラメル色のショルダーバッグをたすき掛けにしてた。
 似たような服装の女性の背中が見えた。

「一瀬君!」

 近くに行って呼び止めるが、違う人だった。

「申し訳ない」
 広東語で謝って一瀬君を探した。
 しかし、人が多くて見つからなかった。

 完全に見失った。

 年だな。
 瞬発力がない。

 もしも一瀬君と同じ年だったら追いつけただろうか。
 
 ため息が漏れた。
 落ち込んでる場合じゃない。
 一瀬君を見つけなければ。

 中環駅のコインロッカーに行ってみよう。
 一瀬君はキャリーバックを預けていた。
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