課長に恋してます!
 もうすぐ50歳になる僕が19才も年下の女性に恋心を抱くなんて愚かだ。  

 妻は亡くなってるが、結婚もしてるし、同じ年ごろの娘だっている。  
 (むすめ)が聞いたら卒倒するだろう。息子の真一だって、飽きれるだろう。半年もすれば孫だって生まれる。  
 もうそういう、恋愛のごたごたは終わった、いい大人なんだ。  

「何やってるんだろうな」
 ため息が出た。

 やはり会わずに帰ろう。
 一瀬君の気持ちに応えられない以上、こういう事をしたらいけないんだ。
 むしろ、きれいさっぱりに僕を忘れてくれなきゃ困る。

 コインロッカーの前を立ち去った。
 通りに出ると、さっきよりも人が多く見えた。

 急に疲れた。背中が丸くなる。

「課長!」

 コートのポケットに両手を突っ込んで歩き出した時、そう呼ばれた気がした。
 もしやと思って人ごみを掻き分けて一瀬君を探すがいない。

 本当に僕はどうしようもないな。
 呆れるぐらい一瀬君を引きずっている。空耳が聞こえるなんて重症だ。

 帰ろう。

 幸せな時間はもう終わったのだから。
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