身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
 そういえばアイツは、暇さえあれば研究室にこもって実験や研究に明け暮れていた。本当は騎士になんてなりたくなかったんだろうな。武門の家に生まれてしまって自分のやりたいこともできないリカルドに対して、唯一同情する点だ。

 俺が辺境伯をやると言ったら、リカルドは喜ぶのだろうか。


 一人になった寝室のベッドの上で、俺は一週間でなまりなまった頭を整理する。

 元々リゼットの図鑑に挟まっていたスミレに毒が含まれていることが分かった時から、ヴァレリー伯爵夫人のことはもちろん心配していた。寝たきりの原因が同じ毒なんじゃないかと見当はついていた。

 しかし、それに主治医が絡んでいたとは……

 リカルドの手紙にある「シビル」とは、伯爵の愛妾のこと。主治医もシビルも既に捕えているということだから、少なくとも現時点では伯爵夫人の安全は確保されているはずだ。
 リゼットはもしかして、このことを知って急いで王都に戻ったのだろうか。

 どれだけ不安だっただろう。このケガさえなければもう少し早く駆け付けることができたのに。

 さあ、これからやることがたくさんある。

 ソフィを連れて王都に戻り、リゼットと伯爵夫人の無事を確認する。リカルドがどこまで準備しているのか知らないが、今回の事件についてソフィたちにそれ相応の裁きがくだるように見届けなければいけない。


 そしてその後は。

 リゼットと二人で話そう。まだ伝えていない自分の気持ちを、自分の口でハッキリと伝えたい。リゼットの気持ちも聞きたい。本当は森から戻ったらすぐに話したいと思っていたのに、俺がモタモタしている間にすれ違ってしまった。

 リゼットのことが大切だと、俺と一緒になって欲しいと言うんだ。リカルドの妻になれなんて、心にもないことを言ってしまったことを謝りたい。

 婚約してほしいなんて悠長なことは言っていられない。伯爵がリゼットに酷い仕打ちをすることのないよう、一刻も早く伯爵家から出て欲しい。
 伯爵夫人もロンベルクに来て療養するのはどうだろう。北国の澄んだ空気と美しい自然を、伯爵夫人も好むんじゃないだろうか。



 …………リゼットが結婚を快諾してくれる前提で考えてしまった。いったん落ち着け! まずは謝罪だ。


 ウォルターにけしかけられた辺境伯の件も、国王陛下に直談判すると宣言してしまった。でも、リカルドにロンベルク辺境伯を任せるわけにはいかないという気持ちは俺の本心だ。

 王都ではやることが山積み。背中の傷もふさがったようだし、ケガなんて後から何とでもなる。早く王都へ向けて出発しよう!

 ウォルターに止められたことを無視して、俺はベッドから起き上がった。
 
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