身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?

第48話 ユーリとリカルド

 国王陛下との謁見の後。
 お父様はショックのあまりその場で倒れてしまい、王城の客間で休ませてもらっている。

 リカルド様と私、そしてロンベルクからソフィと共に王都にやって来たユーリ様は、王城の中の一室へと通された。リカルド様の叔母様にあたる王妃様のはからいで、リカルド様が失踪後に生活していたお部屋だということだ。
 失踪後、ちゃっかり王城で生活しながら国王陛下と交渉していたリカルド様に対しては、あきれて言葉も出て来ない。

 ユーリ様とリカルド様は一言も言葉を交わさないままテーブルに付いた。私は先ほどユーリ様の胸を借りて泣いてしまった気恥ずかしさから、ユーリ様の顔を直視できずにいる。


「じゃあ改めて。ユーリ、久しぶり! 急にいなくなっちゃってごめんね!」
「…………」


 ユーリ様は口元を引きつらせながらリカルド様をじっと睨む。


「ええっと……ユーリ、もしかしてすごい怒ってる?」
「…………怒っているという言葉で表せるほど軽い感情じゃないんだが」


 隣にリカルド様、斜向かいにユーリ様。

 全く悪びれないリカルド様に対して、ユーリ様は静かに怒っている。リカルド様の突然の失踪のせいで、ユーリ様は仕事も仮初の妻の相手も全て任されてしまったのだ。そして今度は急に王都に呼びだされたかと思えば、平然と姿を現して飄々としている。

 二人の間の何とも言えない緊迫感に包まれて、私の色んな心配ごとは頭の隅に追いやられてしまった。

 正直に言わせてもらえば、私だってつい先ほど妹が目の前で裁かれ、お父様が倒れ、自分のことだけでも精一杯な状況だ。この二人のケンカの仲裁をしている場合ではない。

 どうせリカルド様とは離婚するし、ユーリ様とはお別れする予定だったし。

 私、一旦帰ってもいいでしょうか? あとはお二人でどうぞ……っていうのは許されますか?


「いやあ、色々とごめんね。僕の身代わりになってくれてたって聞いたよ。でも僕も今回こそはちゃんと反省した。これからはちゃんとやるよ。だから許して」

「しらばっくれるな。ウォルターとずっと連絡を取っていたんだろう? それに、何を『ちゃんと』やるんだ? お前が一回でも何かをちゃんとやったことがあったか?! お前がいない間、森に魔獣がまた出たんだ、ロンベルクの街に被害が出たらどうするつもりだったんだよ! それにリゼットのことは……彼女のことを傷つけていいとでも思ったのか! ふざけるな!」


 ユーリ様は立ち上がり、リカルド様につかみかかる。襟元をつかんで睨まれたリカルド様は、慌ててこちらに目で助けを求めた。えっ……ちょっと私は、助けられないのですが。


「だって俺たち、ソフィ・ヴァレリーの方が嫁いで来るって思ってたよな? まさかお前の大切な最愛のリゼット嬢が来るなんて、初めは知らなかったし」


 リカルド様の言葉を聞いて、ユーリ様の手が緩んだ。リカルド様はそのまま床にドスンと尻もちをつく。


「最愛の……リゼッ……ト嬢とか……お前が言うな!」

「なんだよ、この間抜け! いまだにリゼットに告白もしてないくせに! 二十五にもなって何でそんな奥手なんだよ!」

「あの、お二人ともちょっと落ち着いてください……! リカルド様、ユーリ様は私ではなくカレン様のことをお好きなようですので……」


 私の言葉を聞いて、真っ赤な顔をしたユーリ様が今度はぎょっとした顔をする。


「リゼット……なんで俺がカレンを……何かの間違いだ」

「そうだそうだ、ユーリはカレンのことなんて何とも思ってないぞ! コイツは君に、それはそれは恥ずかしいラブレターを一晩中悩みながら書い……」


 床に座り込むリカルド様の首に、ユーリ様が後ろから腕をかける。


「お前、なんで手紙のこと知ってるんだよ……!」

「いや、ユーリが王都に行くって言うから僕も付いて来て、こっそり盗み見を……」


 ユーリ様の腕に力が入り、リカルド様が苦しそうに足をバタバタとしながら暴れる。


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