身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?

 実際彼とは興味の対象がとても合っていて、一緒に森に入っては植物を採取して実験や研究に明け暮れた。リカルドも私も、騎士学校の中では異端。騎士としての腕が足りない分は知識で補っていこうと、二人して朝まで一緒に勉強して研鑽を積んだ。
 メキメキと強くなっていくユーリを横目に見ながら。

 こうして私たち三人のバランスは崩れた。

 崩れたはずなのに、ユーリの態度は何一つ変わらなかった。私に怒るでもなく、私を避けるでもなく、リカルドに対しての態度も変わらない。初めてリカルドに遠慮せずに私を求めてくれたと思ったのに、やっぱり彼は身を引いた。

 それが今度は悔しかった。

 興味本位でリカルドに尋ねた。

「そんなに医学や科学に没頭して、一体どうしたいの?」
「何でそんなこと聞くんだ? 逆に自分が迷ってるってだけじゃないのか?」

 リカルドの指摘は、ある意味正しかった。ユーリの気持ちと向き合えずに逃げ、騎士としての欠点にも向き合えずに別の分野に逃げた。じゃあ何で私は騎士を目指したの? なぜユーリに惹かれたの?

「私は女だし……力で足りない分、知識で補いたいのよ。自分の強みを作りたいの」
「カレンは正しいな、優等生だ。僕は正しい人間じゃないから、学ぶ目的なんて大っぴらに言えない。僕がこうして学んでるのは何でかな……勉強して惚れ薬とか作れたらいいな」
「惚れ薬って……! おとぎ話の魔女じゃないんだから。それに、あなたに手に入らない相手なんているの? いつも恋愛の相手には事欠かないじゃない」
「絶対に手に入らない相手っていうのがいるんだよなあ、僕にも。いつか絶対、惚れ薬作ってやろうっと」
 

 それから何年か経って、王都でユーリたちと食事に出かけた時。ユーリが食堂の給仕の女性に釘付けになったのを見た。彼の目は、ずっとその菫色の髪の女の子を追う。

 私のことを欲していた人が、他の女性に恋に落ちる瞬間を目の当たりにした。ずっと感じていた悔しさは、嫉妬に変わる。

 三人のバランスを崩したのは私。ユーリを拒んだのも傷付けたのも私。悔しいとか妬ましいとか、そんなことを言える立場じゃないのは分かっている。逃した魚は大きいと言うけれど、ユーリは私の心の中でかけがえのない大きな存在になっていた。

 一時の気の迷いだろうと思っていたのに、ただの食堂の給仕さんだったはずの女性は、再びユーリの前に現れた。今度はリカルドの妻として。そしてそのリカルドは、今やユーリという身代わりによって演じられている。

 ユーリは私に、彼女とのことを応援して欲しいと言うだろうか。彼の心の中には、もう私という女は存在しないのだろうか。

 
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