身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?
目が覚めたのは、数日後のことだった。
日の光のまぶしさを感じてゆっくりと目を開けると、旦那様とネリーが目に入る。まだ耳もあまり聞こえなかったが、ネリーが泣きながら部屋を飛び出していくのが見えた。
旦那様は私の手を握り、少し涙を拭っている。
「おはようございます……」
「……何を呑気に! リゼット、身体は大丈夫か? 何日も眠っていたんだ」
「そうですか……頭痛は治った気がしますが、ものすごく……おなかがすきました」
旦那様は泣きそうな顔で微笑んで、「何か準備させよう」と言って扉の外の人に声をかけた。
私のベッドの横から動くでもなく、ずっと私の手をさすっている。
「君は、何かの毒を摂取してしまったらしい」
「……毒を?」
「心当たりはあるか? カレンとアルヴィラのことを話した日だ。あの日に何か変わったことは」
自分に毒が盛られるなど、心当たりは全くない。誰かに恨まれるような人生を歩んだつもりもないのに……と、悲しくなりながら私は思い出した。
「あ、スミレ……」
「スミレ?」
「私の母の形見の花図鑑に、古いスミレの押し花があったんです。根や茎まで残っていたので、それでしょうか」
「スミレの毒はそんなに強いのか?」
そう問われて答えに詰まる。いくらスミレに毒があると言えども、何日も意識を失うほどの強さがあるとは思えない。
旦那様は私の手を放し、立ち上がった。
「図鑑のスミレを調べさせる。少し食べられたら、また眠って休んでくれ」
そう言った旦那様の方も顔が真っ青だった。そのままふらつきながら部屋を後にする。
「ネリー」
「はい、奥様」
「旦那様も体調がお悪いのかしら。今、ふらついてらっしゃるように見えたわ」
食事を運んできてくれたネリーは、初めこそ心配そうな顔で私を見ていたのに、ハッとしたようにニヤニヤし始めた。
「それは、奥様が呼吸が苦しそうでいらっしゃったので旦那様が応急処置をなされて」
「応急処置?」
「そうです。それで、奥様が吸われた毒を、旦那様も口にしてしまったんじゃないですかね。旦那様は毒に慣れる訓練をされてるそうですので、大丈夫だと思いますよ」
……ネリーはウィンクをしながら、私に水の入ったカップを渡した。