身代わり花嫁として嫁ぎましたが、どうやら旦那様も身代わりのようです?

第25話 五月の手紙

 旦那様の分まで食べてしまった私は、お腹がはちきれんばかりで苦しい……。運動のために歩いて帰りたいと旦那様にお願いしてみたら、快諾してくれた。

(良かった、もう少し二人の時間を過ごせるわ)

 そう思って喜んでいる自分に気付いてハッとする。

 だって、こんなに誰かと一緒にいて楽しい日が、私にあっただろうか。もちろん今までだって、楽しい日も幸せな日もたくさんあったと思う。でも、誰から何を言われるのか気にすることもなく、ただ目の前の美味しい料理を頂き、何も気を遣わずに気安い会話を楽しむ。

 母が病気になってから、一日でもそんな日があっただろうか。


 日が傾き、春霞のかかったロンベルクの街が淡いオレンジに染まる。旦那様の亜麻色の髪が霞んだオレンジに映えて、絵画のように美しい。つい見とれていると、旦那様が立ち止まって振り返った。

「リゼット、今日一日連れまわしてしまったが、体調はどうだ?」

「……はい、もうすっかり元気ですので大丈夫です」

 そうか、と言って旦那様は右腕を私の方に差し出した。

 エスコートしてくれるつもりなのかな? そう思って左手を絡ませようと思ったら、その手を取られて繋がれてしまった。エスコートするのは貴族っぽくてなんだかこの場にそぐわないから……と言いながら。

 なんだかこうしていると、本当の恋人同士みたいだ。嬉しさと恥ずかしさで背中がゾワゾワして、旦那様右手を握る力がギュッと強くなってしまった。


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