失われた断片・グラスとリチャード
もうすぐ明け方になる。
東の空が、うっすらと明るさを見せていた。
月が白濁して、
まだ濃い闇に浮かんでいる。
リチャードは、
馬車の止まる振動で、目が覚めた。
懐中時計は、明け方の4時を指している。
「旦那様、着きましたぜ」
御者が馬車から降りて、扉を開いた。
さすがに疲れた・・
酒と女の嬌声、馬鹿笑いにはうんざりだ。
息を吐いて、
リチャードは、御者の肩に手を置いて、馬車を降りた。
ガタガタガタ・・
カンテラの鈍い灯りが揺れて、
馬車が遠ざかっていく。
リチャードはゆっくりと、群青の闇に溶けている、
館の玄関に向かって、歩いて行った。
ズズッ・・・ズズッ
通路の石畳は、夜露に濡れて、
すべりやすく、杖の引っ掛かりが悪い。
疲れると、足の引きずりがひどくなり、危険なのはわかっていた。
リチャードが、玄関の鍵を
ポケットから出そうとした
瞬間
玄関扉が、ギィーーーーと音をたてて、少しだけ開いた。
その隙間から、ランプの明かり、
そこにたたずむ、
ぼんやりとした灰色の少女の幽霊・・・・