失われた断片・グラスとリチャード
「旦那様、
足湯をお使いになりますか?」

「え、ああ・・」

すいっと、少女は、台所の暗闇に消える。
まるで、僕(しもべ)妖精のようだ・・・
リチャードは、少し笑ってしまった。

最初は、
幽霊と思ってしまったが・・
この館に、ふさわしいではないか。

しばらくすると、
少女はワゴンを押して、
リチャードの座っているソファーの前に、たらいを準備した。

じゅうたんの上に布を敷いて、
たらいを置く。
ピッチャーから、お湯をそそいで、
「靴と靴下を・・失礼いたします」

少女はかがむと、
手早く、ズボンの裾をたくし上げて、靴を脱がした。

靴下を脱がせて、たらいの湯につけた。
その一連の動作は、
手慣れたもののように見えた。

冷え切った足が、温かい湯につかって、こわばりが緩んでいく。

リチャードは脱力して、
ソファーの背もたれに、身を預けた。

「名前を・・そうだな」
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