失われた断片・グラスとリチャード

使用人の名前

少女の髪の色は、枯れた草原のようだ。

「灰色の空、グレイ・・風にたなびく枯草・・グラス・・」

少女は、まったく関心がないように、素早くタオルで、リチャードの足をくるむように拭いた。

枯れた草原、強い風が吹いて、
陰鬱な曇り空、雷鳴が来る直前の空だ。

少女は灰色の服で、
風に立ち向かうように立っている。
麦わらの、金の稲穂のような髪はなびき、その瞳は、
大地の理(ことわり)を写している。
虚無・・・しかし屈してはいない。

リチャードの脳裏に、
そんな風景が流れていった。

「お前の名前は・・
ここではグラス(草)だ。」

「はい、旦那様、スリッパを」
グラスは淡々と、作業をすすめる。

「私は寝るが・・・」
「はい、お食事はどうされますか?」

リチャードは、杖にすがるように立ち上がった。
足のこわばりがほぐれて、痛みは大分引いている。
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