失われた断片・グラスとリチャード
「食品庫にあるもので・・
おつくりして・・よろしかったでしょうか」
その声は、不安そうで、自信なさげに響いた。

リチャードは、頬づえをついて、
グラスに聞いた。

「お前の食事はどうする?」

「パンだけ・・
少し、いただきたいのですが・・」

うつむいて、エプロンの下で、
手をもじもじさせている。

その声は、期待ではなく、
最初から、あきらめがあった。

リチャードは、グラスのあきらめの感情を、裏切りたい衝動に駆られた。

マーブルのガラス玉の、瞳の変化を見たい。

リチャードは、パンを手に取って、ふたつに割った。
焼きたてで、ふわっと湯気があがる。

たっぷりとバターをのせて、
グラスに差し出した。

「お前の分だ。
それから、皿を持ってこい」

リチャードは、準備された皿に、
自分の皿から取り分けた。

「きちんと食事を取れ。
病気になられては困る。
食品庫は、好きに使ってかまわない」
食材なんて、大した金額のものではない。
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