失われた断片・グラスとリチャード
神の存在意義
グラスとの生活は、
大きな問題もなく滑り出した。
リチャードは気づいていた。
グロスターの館が、きれいになっている。
銀食器も磨かれて、部屋の隅のほこりもなく、
家具や調度品も、ワックスがかけられ、新品のようにきれいになっている。
灰色の死霊の少女は、
雇い主である死神に、満足を与えた。
リチャードが一番気に入ったのは、どんな遅くに帰っても、
グラスが出迎え、暖炉の火が燃えて、部屋が暖かい。
それに、足湯を準備してくれることだ。
ベッドのシーツも清潔で、どこからか探し出したのか、湯たんぽも入っていた。
冷えると痛みが出る、リチャードにとっては、ありがたいものだった。
ふと、気が付くと、
居間の小机に、紫の小花が生けてある。
花は、庭に咲いていたものだ。
「女主人のいる館」に、グロスターの幽霊屋敷はなっていくようだ。
リチャードは、本から目をあげて、花びんに生けてある花を
ぼんやりと眺めていた。