失われた断片・グラスとリチャード
チーーン、チーーン

暖炉の上の、繊細な彫金の時計が、時を告げた。

今度の舞台の、脚本のための資料を、図書室で調べなくてはならない。
リチャードは、
杖に力を込めて立ち上がると、
部屋から出た。

図書室は、屋敷の奥まった北向きにある。
歴史的な蔵書も多くあり、
変色や劣化を防ぐために、陽ざしに当たらないようにするためだ。

突き当りの廊下の隅に、
バケツとモップが、置いてあるのが見えた。

グラスが、掃除に入っているのだろう。
リチャードは、扉を開けた。

人の気配がない・・・
掃除は、すでに終わっているのか。

リチャードは、そのまま
壁際に連なる本棚に、足を運んだ。

「えっ・・?」
重く、厚手のカーテンの垂れる床、
カーテンの隙間から、小さな足がのぞいていた。

「グラス?」
リチャードが声をかけたが、
反応がない。

リチャードが、カーテンをかき分けるようにすると、
床に座って、グラスが眠り込んでいた。

壁にもたれ、
膝には本が、読みかけのように広げられていた。
眠っているグラスは、とても幼く見えた。
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