失われた断片・グラスとリチャード
リチャードは、おもしろそうに、
動物が罠に入るか、試しているようだ。

「ううんと・・」
息を吐くと、
グラスは羽ペンを取り、
計算問題を、紙に写しはじめた。

「できたら、見せろ」
リチャードはグラスの様子を、
じっと観察していた。

この娘は・・
指を使わないし、計算も速い。
能力が高い。
きちんと教育を受けたのならば、もっと・・・

「できました」
グラスが、リチャードの前に立ち、計算用紙を差し出した。

リチャードが、チェックを入れていく。
間違いがない。満点だった。

「ほうっ」
グラスが、安堵(あんど)のため息をついた。

「お前は・・いつ、どこで、覚えたのだ?」

リチャードの問いに、グラスは
うつむいて

「その、以前、貴族のお屋敷で・・
小さいお坊ちゃまの、お世話をしていた時、
家庭教師が、教えていたのですが・・・
その、お坊ちゃまが、なかなか
できなくて、」
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