失われた断片・グラスとリチャード
エプロンで、しきりに手をぬぐって、落ち着きがない。
余計な事を言ってしまったと、
後悔しているように見えた。

「それでは・・」
リチャードが立ち上がった。

「私は街に行く用がある。
お前も来なさい。
食糧品の店に、連れて行くから。
そこで、配達してもらうものを、選べばいい」

「その・・その・・
このままで、よいでしょうか?」

グラスが少し、後ずさりをしながら、聞いた。

みすぼらしい灰色の服、
街に行って、リチャードのような紳士と一緒に、歩くようなものではない。

ドンドン
ドアノッカーが鳴った。

「迎えの馬車だ。
そのままでいい。時間がない」

リチャードは目を細め、額にしわを寄せた。

どちらにしても、
この娘の服を、何とかしなくてはならないだろう。
グロスターの館に、ふさわしいくらいの・・・
体裁(ていさい)は必要だ。

馬車の中で、グラスは身をすくめるようにして、
リチャードの正面、やや斜めに、
視線を合わせないように座った。
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