失われた断片・グラスとリチャード
あのやり手婆さんは、
そこそこの見た目と言ったが、
日中の、明るい中で見ると、
小さめのうりざね顔は、整っている。

髪の手入れをして結い上げ、
化粧をしたら、美人になるだろう。
特に、あの宝石のように、
アンバーとブルーが混じりあう瞳は、印象に残る。

グラスはリチャードが、
自分を見ているのに気がついて、うつむいた。

「お前は今まで、どんな所で働いてきたのだ?」
リチャードの質問に

「貴族の方の別荘とか、
司教館とか、商人のお屋敷とか
・・いろいろです」

「点々としてきたのか?」

グラスは、うつむいたまま答えた。
「孤児院を出てから、そうです。
その、私は、
他の人と一緒に、うまくやれなくて、怒られてばかりで」

過去のつらい記憶を、ほじくられたようで、
膝に置いてある指に、力が入った。


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