失われた断片・グラスとリチャード

新しい名前

馬車に乗ると
「これから、お前は貴族の娘だ。
いいな。そう振る舞え」

リチャードは、不機嫌な声で言った。

この美しく、変わった宝石の瞳を持つ娘を、どう扱っていいかわからない・・・
その不機嫌さだった。

灰色の幽霊が、
いきなり深紅の薔薇の花に、
変身してしまったからだ。

「ホテルで、プライベートのパーティがある。
私の知り合いで、義理で顔を出すのだが」

リチャードは、少し考え込んで

「お前は、貴族の屋敷でも
働いたことがあると言ったな。
そこで、奥方や娘が、どのようにやっていたか、
見たことがあるはずだ」

「はい・・・」
グラスは小さくうなずいた。

「私の取引先の貴族、
その妹・・・だ」

グラスはうつむいていた顔を、
あげた。

「余計な詮索を、されたくないからな。
私の方で説明はする。
お前は黙っていればいい」

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