失われた断片・グラスとリチャード
「手を取れ、
貴族の娘は、どう馬車を降りるか、
見たことがあるだろう」
リチャードは、早口で言った。

グラスはおずおずと、
リチャードの手に、自分の手を乗せ、
スカートの裾をつまんで、馬車を下りた。

グラスとリチャードは、腕を組んで、ガーデンホテルのラウンジに入っていった。

リチャードは、懐中時計を取り出して、時間を確認した。

「まだ、早いな、コーヒーでも飲むか」

「はい、旦那様」
グラスが、いつものように答えた。

「違うっ!」
リチャードは、杖で床をコンと叩いた。

「ここでは、リチャードと呼べ。
お前は貴族の娘、グレイスなのだからな」

「はい・・・リチャード様」
グレイスはうつむいて、
自信なさげに答えた。

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