失われた断片・グラスとリチャード
ジェラシーの兆し
大広間では音楽が流れ、ダンスが始まっていた。
ワルツだった。
大勢の中でグレイスは・・・
踊っていた。
ハモンドに抱かれて、少しつたないが、こなしている。
リチャードは、踊る二人を目で追っていた。
グレイスは美しく、
しかも、楽しそうに見えた・・・
楽しそうに?・・・
リチャードの杖を握る手に、
力が入った。
この感情、湧き上がる感情・・・
持て余す感情
自分のものを、いきなり奪われるような・・
曲が終わった。
ハモンドが、グレイスの手を取り、
リチャードに向かって、歩いて来た。
「とても楽しい時間を、ありがとうございます」
ハモンドは、礼儀正しくグレイスにお辞儀をした。
「グレイス、すぐに帰るぞ」
リチャードは、うつむき加減に、
低い声で言った。
ハモンドに、この感情を悟られたくない。
ふと、ハモンドが、リチャードの耳に小声で、意味深に
「君の恋人なのか?」