失われた断片・グラスとリチャード
「そうではない・・!」
リチャードは、いらだたしげに、
杖で絨毯をつついた。

「ハモンド様、失礼いたします」
グレイスが、優雅にお辞儀をした。
リチャードが背中を向けて、
先に歩き出した。

カツッ、カツッ

杖を握る手に、必要以上に
力が入っていた。
グレイスが、その後ろを、
少しうつむき加減に、ついていく。

いつもの使用人と、
主人の関係に戻っていた。

馬車に乗ると、
リチャードが、すぐに口を開いた。
「ダンスを踊れるなんて・・
どこで習った?」

「習ってはいません。
お屋敷で、ご奉公させていただいた時、
お嬢様のダンスレッスンの付き添いで、見ていました」

グレイスは、
リチャードの不機嫌さを察してか、小さな声で答えた。

「他に、お前は何ができる?」
リチャードは、詰問調になった。

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