失われた断片・グラスとリチャード
リチャードは、
その影を見つめて言った。

「私が、エリザベスを
馬に乗せて、駆け落ちしようとした時、
馬が急に暴れて、二人とも放り出されたんだ。

エリザベスは、首の骨を折って・・死んだ。
私は・・・足と腰の骨を折った」

リチャードの腕の中のグレイスは、頭を垂れたまま、
静かに、耳を傾けているようにみえた。

十字架の影は、
陽の傾きと比例して、長く伸びていく。

「エリザベスの父親は、私を許さなかった。
殺人者として、
私がエリザベスを突き落としたと、警察に訴えたのだ。

私は牢屋に入れられた。
鉄格子のなかで、何回も、なぜ、エリザベスが死んで、
私が生き残ったのか・・・

神に問うた。
私も死にたかった。
だが、死ねなかった。
そして神を、呪った。」

リチャードは、大きく息を吐いた。

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