失われた断片・グラスとリチャード
窓からの西日が、絨毯の模様を浮き出すように、最後の輝きをもって、照らしている。

十字架の影の先端は
リチャードの足先まで、届いていた。

一日が終わろうとしている。
夜の帳(とばり)が降りて、静かに幕が閉じる。

グレイスの指先が、リチャードの手の甲の、噛み傷をなでるように触れた。

「ごめんなさい・・ごめんなさい」

グレイスの目から、
涙がポロポロとこぼれ落ち、
赤く腫れた手で、顔を覆った。

「私は・・・旦那様のおそばに・・いたい」

グレイスは、ため息を吐くように言った。

リチャードは、もう何も言わなかった。
ずっと、グレイスを抱きしめていた。

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