俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない

 「はい、確かに受理しました」

 婚姻届の提出というものは、案外あっけなかった。

 対応する職員の人柄によるところもあるのかもしれないけれど、私たちの婚姻届を受け取った中年男性は極めて事務的に内容を確認しただけで、「おめでとうございます」のひと言もとくになかった。

 祝福されたところで契約結婚だから、変に気まずくならなくてよかったのかもしれないけれど。

「さて、この後は買い物だな」

 深澄さんの方も特別な感慨はなさそうで、区役所を出るなり軽い調子でそう言った。

 近くのパーキングに車を停めてあるので、一旦そこへ向かって歩きだす。

 晴れた空からはじりじり夏の日差しが照りつけ、背の高い深澄さんを見上げるだけで目が眩む。

「夕食の材料ですか?」
「じゃなくて、ベッド。ずっと俺のベッドで寝るなら買わなくてもいいけど」
「か、買います! 買わせてください!」

 突発的にマンションに泊まった今までの二回は彼がベッドを譲ってくれたけれど、毎日一緒に住むのにベッドがないのは不便だ。

 パイロットはきちんと休息を取ることも仕事の内だし、いつまでも彼をソファに追いやっているわけにはいかない。

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