俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
しかし、両親は互いにバラバラなシフトで夫婦のすれ違いが重なっていたらしい。私が中学に上がった頃には、家の中の空気が異様にピリつくようになった。
そしてちょうど同じ時期、父が昇進にかかわる社内資格の取得試験に手間取り、一方で母は客室乗務員の総責任者であるチーフパーサーの試験に一発で合格した。
その一件がきっかけで、父は心が折れてしまったらしい。
『航空整備士を辞めて、気ままに模型店でもやろうと思う』
父は母にそう切り出したが、母はあきらめず航空整備士を続けてほしかったため、両者の意見は平行線をたどるばかり。
夫婦間の溝が埋まることはなく、最終的に離婚した。
私は生き生きと世界を飛び回る母を邪魔したくなかったのと、父をひとりにするのが心配だったため、実家に残ることを決め
た。
……しかし、今ではその選択を少々後悔している。
「父が模型店をやってることに文句はないですけど、家事は全部私任せ。その上、『肉体的にも精神的にもつらい航空業界にいると不幸になる』というのが口癖で、隙あらば転職を勧めてくるんです。家事をしている分勉強時間は減るし、なによりメンタルが削られます」