俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない

 鷹矢さんも服部さんのそんな姿を見ていたから、契約結婚なんて思いついたのかもしれない。

『へえ、本当に整備士なんだな……』
「えっ?」
『ああ、こっちのこと。じゃ、深澄とお幸せに』

 わけのわからないことを言われたまま、ブツッと無線が切れる。

 なんなの……。

 機長相手についイライラしそうになったけれど、精神が不安定だと整備にも粗が出る。

 ゆっくり深呼吸をして気持ちを落ち着けると、私は機体の周りを歩きだし、点検を始めた。

 大きな機体なのでかなり時間がかかるが、ゆっくりはしていられない。

 私たちがこうして点検している間に、空港では次の便の搭乗客たちが待っていて、着々と手続きが進んでいる。パイロットやCAたちも入れ替わり、今頃クルー全員でブリーフィングを行っている頃だろう。

 ……そういえば、次の便の担当副操縦士は鷹矢さんだっけ。

 ふと彼の顔が頭をよぎるも、時間と戦っている今は思いを馳せている場合じゃない。

 クラックと呼ばれる小さな亀裂のひとつも見逃さないよう観察し、最終的には責任者の最上さんにもチェックしてもらう。

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