俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
振り向くと、Tシャツにチノパンというラフな格好、トレードマークの髭もいつも通りの最上さんがいた。
立ち止まって、ぺこっと頭を下げる。
「そりゃお前、誰かさんが傷ついてるんじゃないかと思ったらおちおち寝てらんねぇし……」
「誰かさん?」
きょとんとして首を傾げたけれど、最上さんはなにも言わない。かと思うと、いきなり眉間に皺を寄せて私の顔を凝視した。
「な、なんかついてます……?」
「違う。ちょっとこっち来い」
不機嫌そうに顎をしゃくった彼は、自習室とは反対方向に歩きだしてしまう。
「えっ? あの……」
どうしようか迷ったけれど、最上さんの背中から怒っているオーラが出ているような気がしたので、大人しく従ってついていくことにした。
最上さんが私を連れてきたのは、ビルの裏側。自動販売機が三台とその正面にベンチが置かれた休憩スペースだ。
建物の陰になっているとはいえ、真夏にここで休憩しようとする社員はめったにいないため、私たち以外誰の姿もなかった。