俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
無能なパイロット――side鷹矢
自分の体に異変を感じたのは、シドニーのホテルに一泊して目覚めた朝のことだった。
風邪のような軽い倦怠感とともに、左胸の辺りに、微かだが締めつけるような痛みを感じた。痛みは息を吸う時に強くなり、吐くときは楽になる。
このような体調不良は初めてで、思わず顔をしかめながら胸の辺りをさする。
「おはようございます、深澄さん。どうされました?」
声を掛けてきたのは、昨夜突然俺の部屋にやってきた男性CAの堂島という男だった。
背は高いがひょろっと細身で、黒目がちな瞳が子犬を思わせる。まだ二十三歳の新人で仕事を覚えている最中の彼は、いつもどこかオドオドしていて、先輩CAから叱責されている姿もよく見かける。
それで、本人も愚痴や鬱憤が溜まっていたらしい。
直接仕事を指導されているCAでなく俺に悩みを相談したいとこの部屋にやってきたので、軽く酒を飲みながら彼の話を聞いた。
途中で眠くなり俺は早々とベッドに入ったが、堂島もそのままこの部屋で寝ていたようだ。