俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
「あっ、じゃ、僕も自分の部屋に帰りますね。ずっと居座ってしまってすみません」
「高城なんかに負けんなよ」
顔を洗うために洗面所へ向かう途中、俺は堂島を振り返って言った。
「えっ?」
「昨日さんざん愚痴ってただろ。パワハラ紛いの言動が多くて腹立つって。高城だって新人の頃から仕事ができたわけじゃないし、仕事ができたって後輩を理不尽にいびってるようじゃ、人間的にはむしろ退化してる。そんなろくでもない先輩、さっさと追い抜けばいい」
「深澄さん……」
堂島の子犬のように濡れた瞳が、部屋の照明を反射して揺れる。そしてきゅっと唇を噛んだかと思うと、ポケットからスマホを取り出して俺のもとへ一歩歩み寄る。
「あの、実は俺……」
堂島がそう言いかけたのと同時に、トントン、と部屋の扉がノックされた。
「深澄さん、おはようございます。起きてらっしゃいますか?」
扉越しだと言うのによく通る朗らかなその声は、高城のものだ。
堂島が怯えたようにびくっと肩を震わせ、出したばかりのスマホをサッとポケットにしまう。
高城が怖くてしかたがないようだ。
「噂をすればなんとやら……だな」