俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
「断る。これから機長のところに行くんだ。……あとお前、妻帯者を気軽に誘うその無神経さ、直した方がいいぞ。じゃあな。今夜のフライトもよろしく」
一方的にまくし立て、ドアを閉める。
撃退完了。胸の内でそう呟き、今度こそ顔を洗って身支度を始めた。
亘キャプテンは俺の体調不良を重く受け止め、俺は今夜のフライトでコックピットに入ることを禁じられた。
幸い、フライトは夜で時間があったため、すぐに羽田に連絡してスタンバイのパイロットを呼び寄せ、出発時間を少々遅らせてでも、担当便を飛ばす手筈になった。
何百人という客の命を預かるのだ。亘キャプテンの判断は俺も正しいと思う。
しかし、亘キャプテンだけでなく、今回のフライトを共にしていたクルー、羽田とシドニーの航空関係者、搭乗予定の客たち、数えきれないほどの人々に迷惑をかけたという罪悪感が俺の胸を苛んだ。
無性に光里の声が聞きたくなり【電話したいんだけど】とメッセージを送ってみたが、既読が付かない。夜勤明けなので、眠っているのかもしれない。
ふと弱い自分が顔を出しそうになるが、すぐに気持ちを切り替える。