俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない

「こんにちは。今、夫を待っているところで」

 意外な場所で先輩に会う偶然に驚きつつ、軽く挨拶する。

 かっちりしたジャケットを着た私服姿なので、いつもと印象が違う。

 しかも、彼の隣には女性がおり、親し気に腕を絡ませている。

 もしかして、デート中……?

 ドキッとして遠慮がちに女性の顔を見たら、見覚えのあるその美人はとっさに私から目を逸らした。

 こ、この人……高城さん?

「待たせたな、光里――って、なんでお前らがここに?」

 フロントから戻ってきた鷹矢さんが、信濃さんと彼女を交互に見て怪訝そうにする。

 実は、少し前に高城さんはスカイイーストのCAを自主的に退職していた。

 鷹矢さんのお見舞いにも訪れた男性CAを中心に、彼女の行き過ぎた指導についての告発があり、とても仕事を続けていられる状況ではなくなったらしい。

 いつの間にか例のSNSアカウントも消えていたので、今日こうして会うまで彼女の存在はすっかり忘れていた。

 高城さんはますます居たたまれない表情になり「行きましょうよ……」と信濃さんの腕を引っ張る。

 しかし、信濃さんはそれに応じず私たちに向けてにっこり微笑んだ。

< 204 / 234 >

この作品をシェア

pagetop