俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない

 慈しむような声に名前を呼ばれ、おずおず目線を上げる。

 鷹矢さんは優しく微笑んで、私の鼻の頭にチュッとキスをした。

「……あんまり構えるなよ。こっちまで緊張する」
「だって……私、ホントにこの二十五年間、男の人には縁がなかったので」
「大丈夫だよ。こないだちょっと触った時の反応見る限り、お前素質ありそうだったし」
「そ、素質?」

 どういう意味かと目で問いかけたその時、エレベーターが目的の階に到着する。

 鷹矢さんに手を引かれて足音の立たない絨毯の廊下を歩き、やがて大きな扉の前で彼が足を止めた。

 ホテルって、もっとたくさんの扉が廊下に並んでいるイメージだけれど、エレベーターからここに来るまでに扉は関係者用のものしか見当たらなかった。

 もしかして、このフロア全体が私たちの泊まるスイートルームなの?

 初めてのラグジュアリーな世界に圧倒されているうちに、鷹矢さんが扉の鍵を開ける。

 背中にそっと手を添えられ、室内に足を踏み入れた。

 ゆったり寛げそうなソファに巨大な壁掛けテレビ、ダイニングセットにバーカウンター。窓の向こうには、チャペルやレストランとは逆側の都心の風景が広がっている。

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