俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
私も負けないように勉強しなくちゃ。
新しい機体だからいつも以上に注意深く点検するとともに、整備の仕方を勉強しないと……。
気合を入れてパソコンの前を離れると、同じ作業に当たる先輩方との細かい作業の打ち合わせをしに、格納庫へ向かった。
午前九時半、これから鷹矢さんが操縦することになる機体が、福岡から帰ってきた。
グラハンスタッフがパドルと呼ばれるしゃもじのような道具で飛行機を誘導し、駐機場に停まったところで私たち整備士が機体に駆け寄る。
ギアの周囲に手早く車止めを置くと、さっそく機体の周囲を確認し始めた。機長への聞き取りは、この機体の整備責任者の資格を持つ最上さんが行った。
私が一番に向かったのは、ランディングギア。着陸の衝撃を受け止めるタイヤの部分だ。
一日に何往復もする国内線の機体はブレーキや車輪に負担がかかりやすいため、ブレーキパッドの減り具合、タイヤの溝など注意深く点検する。
特に異常は見られず次の場所に移ろうとすると、最上さんに呼ばれてコックピットに同行した。
操縦席の前には八百を超えるスイッチがあり、一つひとつ、電気系統に異常がないか確かめる。途中で鷹矢さんと服部キャプテンも合流し、整備状況を丁寧に説明した。
ひと言くらい鷹矢さんに言葉を掛けたかったけれど、最上さんや機長がいるので遠慮し、心の中で『行ってらっしゃい』と呟く。
するとその思いが通じたように鷹矢さんがちらっと私を見て、言葉は発しないものの、笑顔で一度頷いてくれた。
その間に別の先輩が外の整備や客室のチェックを終えており、定刻五分前にはきっちり、飛行機を送り出す準備が整った。