俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない

 彼のそばにいれば、自分の仕事にもっと自信と誇りが持てそうな気がする。実家で腐りなりながら勉強するより、絶対にそっちの方がいい。

 彼の言う結婚に恋愛感情は必要ないようだし、これって私にとって願ってもない申し出なのでは。

「どうする? 結婚の返事がイエスなら、この後俺のマンションに案内する。ひと晩中飛行機の話をしてもいいし、お前の先輩が言っていたような期待をしているなら応えてやる」
「期待?」

 なんのことだろう。小首を傾げて深澄さんの顔を覗く。

 彼はふっと息を漏らして笑うと、内緒話をするように私の耳元に唇を寄せた。

「処女喪失」

 瞬間、ぶわっと顔中に熱が広がり、ソファの上を移動して深澄さんから距離を取った。 

「ひ、ひ、飛行機の話でお願いします……!」
「ということは、返事は〝イエス〟だな。これからよろしく」

 不敵な笑みを浮かべた彼を見て、単にからかわれたのだと悟る。仕事には真摯な彼だが、プライベートでは少々意地悪な面もあるらしい。

 ま、あんなに大勢の美人を(はべ)らすことのできる深澄さんが、少年のような見た目の私に手を出そうと思うわけもないか。

 ホッとしたような悔しいような気持が入り混じり、ワイングラスを口に運ぶ。

 アルコールには強い体だったはずなのに、その夜は簡単に酔いが回って、店の景色がふわふわ揺れた。おまけに微熱に侵されたように、体の内に熱がこもる。

 最上さんたちとお酒を飲む時は、どんなに飲みすぎてもこんな風にならないのに……。

 初めての感覚に戸惑いながらも、私はボトルのワインがなくなるまでの間、深澄さんの端正な横顔をぼんやり眺めていた。

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