俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
あはは、と笑ってドッグに入ると、ちょうど通りかかった石狩さんが、「ぶえっくしょーい!」盛大にくしゃみをして持っていた工具をばらまく。
「誰だよ、俺の噂してるやつ……」
不満そうに呟く彼がおかしくて、最上さんと私は必死で笑いを堪えつつ、工具を拾うのを手伝うのだった。
昼休憩を挟み、再び発着便の整備にあたること三時間余り。
新千歳行きの便を見送り少し手の空いたところで、格納庫から血相を変えた石狩さんが飛び出してきた。
「涼野! やべえ……! 那覇から帰ってくるSE190便が……!」
「SE190便……?」
鷹矢さんと服部キャプテンが操縦する便……機体は、私たちが整備して送り出したものだ。
「どうしたんですか? 飛行中に何かトラブルでも……?」
時間的に、間もなく羽田に到着する頃。けれど石狩さんの慌てように、心が急にざわつく。
少し離れたところにいた最上さんも不穏な雰囲気を察知して、こちらに駆け寄ってきた。
「石狩、なにがあった?」
「ノーズギアが……下りないって……」
「えっ?」
ノーズギアが下りない。
その言葉をすぐには受け入れられなかった。