俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない

「油圧でも手動でも、どうしてかノーズギアが出ないらしい。今、消防や警察にも報告が行ってて、羽田着のほかの便は次々に別の空港にダイバートさせてる。ちなみに、操縦桿を握っているのは深澄さんだってよ。服部キャプテン、那覇を出た時に耳をやられたみたいで」
「耳……航空性中耳炎か。タイミングの悪い」

 最上さんが、思わずといった感じに舌打ちする。

 パイロットやCAがなりやすい、気圧の変化による中耳炎。操縦桿を握れないということは、軽いものではないのだろう。痛みのほかに、激しい耳鳴りが現れることがあるとも聞く。

 つまり、鷹矢さんが機長に代わり、ノーズギアの下りない機体を着陸させる……。

 ノーズギアとはすなわち前輪。地上走行の際に利用するほか、着陸の衝撃を吸収するためにはなくてはならない。それが、出ないと言うことは……。

「胴体着陸は避けられない……?」

 震える声で呟く。血の気が引いていく感覚がした。

「最悪、事故になるかもしれん」

 最上さんも、険しく眉根を寄せる。

 ……どうしてこんなことに?

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