俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
カッと全身が熱くなり、思わず彼から距離を取る。
しかし当の本人は涼しい顔をしてくるりと私に背を向け、微かにこちらを振り返って笑った。
「これからしばらくすれ違いの生活だろ。フライト前に少しでもお前を補給しないとやってられないと思って。じゃあな、行ってくる」
いつもながら、なんて勝手で強引な人だろう。
ドキドキ胸を高鳴らせる私とは対照的に、彼は飄々とタラップを上ってコックピットへ戻っていく。
有能なパイロットであることを自負し、傲慢なくらいに自信たっぷりな天才副操縦士。
そんな彼が、この日の乗務を境に飛行機に乗れなくなるなんて、この時の私は知る由もなかった。
* * *
例年より少し早く梅雨明けし、本格的に暑くなってきた七月中旬。
航空整備士である私、涼野光里は仕事の後、羽田空港近くのワインバーで職場の仲間とお酒を飲んでいた。
「じゃ、今日もお疲れ様。乾杯~」
「かんぱーい」
ゆったりとソファで寛げる四人掛けの席で、軽くグラスを合わせる。
一日労働して疲れた体にご褒美を与えるように、スパークリングワインを喉に流し込んだ。