俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
「で、どうするんだよ、婚姻届。そんなに躊躇するってことは、お父さんの反応が心配か?」
深澄さんに聞かれ、考えるまでもなく首を横に振った。
「いえ、それはないです。むしろぎゃふんと言わせたいくらいなので」
「じゃあ、さっさと書け。この後お前を家まで送るつもりだが、ついでにお父さんの店を覗いて軽く挨拶しよう。その時にいきなりこれを突きつけて証人欄へのサインを求めたら『ぎゃふん』と言うかもしれないぞ」
「今さらですが、ちょっとかわいそうですかね?」
深澄さんの提案を実行したら、絶対に父は慌てる。
その姿を想像したらチクッと良心が痛んだ。
「最終的な目標は、お父さんにお前の仕事を認めさせることだろ? お前は、お父さんがなんの文句もつけられないくらい立派な整備士になればいい。お父さんも整備士だったならわかるはずだ。自分の娘がどれほどの努力を重ねたのか」
「深澄さん……」
彼の言葉はすとんと胸に落ち、波紋のように心に沁み渡っていった。
そうだ、別に私は意地悪で父から離れようとしているわけじゃない。自分の夢をかなえるため、仕事と勉強に集中できる環境が欲しいだけ。
お父さんだって、きっといつかわかってくれる。