俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
「今度こそ、ときめいただろ?」
「……い、いえ全然。では書きます! 立派な整備士になるために!」
深澄さんの悪戯な眼差しにどぎまぎして、視線をパッと婚姻届に落とした。
尊敬するパイロットからのありがたいお言葉にちょっと感動しただけで、断じてときめいてなどいない。
自分に言い聞かせるように思いながらも、不可解な胸の苦しさはさっきよりも大きくなっていた。
家までは深澄さんが車で送ってくれることになった。
彼は飛行機の操縦に限らず乗り物の運転が好きらしく、スタイリッシュなブルーのスポーツカーは今どき珍しくマニュアル車。運転している実感が得られないオートマ車はつまらないそうだ。
私も機械好きなので、その感覚はわからないでもない。
運転中の深澄さんをちらっと見て、私は話しだす。
「高校を卒業した春休みに数人の同級生と合宿で免許を取りに行ったんですけど、みんなオートマ限定の免許を選ぶ中、私だけマニュアルを選択したんです。マニュアルだと二日くらい合宿日数が増えるから、同級生と同じ日に地元に帰れず切なかった思い出があります」