俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
彼女は入社した当初から、真面目で呑み込みが早い優秀な新人だと噂されていたが、俺が彼女を意識するきっかけは半年前のほんのささいな出来事だった。
俺が、出発前の外部点検を行っていた時である。
まだ半人前の涼野は先輩整備士を伴って熱心な目で機体の各パーツを点検しており、俺はその姿をなにげなく視界に捕らえながら、自分の目で機体を確認していた。
目立った損傷やオイル漏れはなかったので安心してコックピットに戻ろうとしたその時、涼野もまた点検作業を終え、先輩から『合格』のひと言をもらっていた。
彼女はその瞬間パッと破顔し、くるりと後方の巨大なエンジンを振り返る。そして回転するファンを囲む外側の丸いカーブに手を添え、思わずと言った感じにチュッと唇を寄せた。
その光景を見た瞬間、俺の心臓が大きく飛び跳ねる。
そして同時に、甘くて、それでいて焦れったい、恋愛特有の面倒くさい感情が心の内に湧きだすのを感じた。
涼野の姿は全身ツナギで頭にはヘルメット、足元は安全靴、化粧っ気もない。
にもかかわらず、明らかに、そして急速に彼女に惹かれる自分を感じ、少々動揺する。