俺様パイロットは揺るがぬ愛で契約妻を甘く捕らえて逃さない
「あっ、ありがとうございます信濃さん」
「いいえ。涼野さんは我らのお姫様ですから、なんなりとお申し付けください」
「あはは。いつも言ってますけど、私は姫ってガラじゃないですって」
からっと笑って、ソーセージにかぶりつく。すると隣に座っている上司の最上さんが、私の頭にポンと手を乗せ、肩下まであるストレートの髪をわしゃわしゃと散らした。
「わっ、ちょっと……!」
「それでも俺たちにとっちゃ大事なお姫さんなんだよ。黙って可愛がられとけ」
最上さんはそう言って、髭に囲まれた口をニッと弓なりにする。
短髪でガタイがよくちょっぴり強面な彼だけれど、話してみると面倒見がよく優しい人だ。
航空整備士ひと筋で現在四十歳の彼は、未だ独身。私のような色気皆無の小娘をかわいがるのは、仕事ばかりで出会いがなさ過ぎるせいだと思う。最上さんだけでなく石狩さんも信濃さんも独身で、彼女すらいない。
運航整備部に所属する社員は百名以上いるが、女性社員の数はひと桁。
そういった環境に加え、みんな女性より飛行機に対する愛が強すぎるのだ。